ニューヨークエッセイ
村上春樹氏の傑作長編小説を蜷川幸雄氏が舞台化した『海辺のカフカ』が、リンカーン・センター・フェスティバルでニューヨーク公演初日を終え、満員の客席から沸き起こったスタンディング・オベーションと鳴りやまない拍手が、いまでも脳裏に焼き付いて離れません。宮沢りえさんをはじめとする豪華な出演者陣の熱演を讃えるだけではなく、全身黒い衣裳を身にまとい装置を舞台上で動かしていた日本人スタッフがカーテンコールで表に出たときに彼らにも送られた大きな歓声が、公演の成功を証明していたように感じました。私は壮大なスケールの舞台芸術をたった5日間の仕込みと稽古で完成させた舞台裏に居合わせ、文化も言語も異なる日本とアメリカ両方のプロフェッショナルが一致団結するためには何が必要なのかを学ぶこととなりました。