ニューヨークエッセイ
「戯曲家ですよね、サインしてもらえますか?」と劇場で声をかけられることにも、随分慣れてきました。セカンド・ステージ・シアター制作のザ・ヘイズ・シアターで現在公演中の演劇『ストレート・ホワイト・メン』は、ヤング・ジーン・リー氏作、アンナ・D・シャピーロ氏演出による演劇です。女性アジア系アメリカ人による戯曲をブロードウェイで上演することが歴史上初であるように、ニューヨークの演劇業界で活躍するアジア人の数は多くなく、特にブロードウェイは白人男性社会と認識されています。この作品の制作チームにおいてもアジア人は韓国生まれのリー氏と日本人の私の2人だけでした。この公演の照明デザイナー、ドナルド・ホルダー氏の横で助手である私が彼の指示をノートに書き出していたら、「公演のメモを取っているから戯曲家かと思った」と客に声をかけられました。リー氏と私の容姿はまったく似ていませんが、年齢があまり変わらないこともあり、メディアを通してしかリー氏を知らない西洋人からしたら私と見分けがつかないのかもしれません。丁重に否定する私に、ホルダー氏は「もういい加減『はい、私が戯曲家です』って言っちゃってもいいんじゃない?」と笑いました。いや、それはさすがに無理です。