ニューヨークエッセイ
照明デザインを担当した『希望』の初日を迎えた後、私はしばらくぶりに家に帰りましたが、役者さんの「役抜き」ないし「プロダクション抜き」に数日かかりました。『希望』はホープ・サラス氏が2007年に他界した彼女の母親をモチーフに制作・出演した演劇です。彼女自身と彼女の両親、そして母親の親友を含む4役以上を1人で演じきったサラス氏ですが、性的虐待を受けた彼女の母親の生い立ちから、聞くに堪えない彼女の流産そして破綻した結婚生活と自殺した元夫など、語られる内容が非常に濃厚で、どこまでがフィクションなのか本人に聞くことすら躊躇します。唯一確かなのはサラス氏が心から両親、特に母親を愛していることでしょう。自分の娘に「ホープ(希望)」と名づけた母親の死から11年経ったこの秋、『希望』はサラス氏にとって喪に服す最終章として制作されたのかもしれません。